東南亜細亜掬魚紀行外伝
植物漫遊記


ボルネオ紀行2007
興味深いアリ植物

大多数の植物は、多かれ少なかれ何らかの動物との共生関係にあるといってよいと思います。特に昆虫との関係は重要で、真っ先に思いつくのは昆虫によって受粉する虫媒花でしょう。熱帯で最も数の多い昆虫はアリですが、ジャングルでは最も重要な植物のパートナーでもあります。

熱帯で綺麗な花を見つけても不用意に手を出してはいけません。蜜を求めてやってくるアリの総攻撃をうけるかもしれないからです。蘭を育てている方ならご存知と思いますが、蘭の新芽は蜜を分泌することがあります。アリを誘って新芽を守っているのです。このようにアリとのgive & takeの関係にある植物は多いのですが、その究極の形がアリ植物なのです。

アリ植物はアリに住処と食糧を供給し、アリはアリ植物を守り、肥料を供給します。時には花粉を媒介し、果実を回収することで播種を助けます。このような密接な共生関係を持つ植物はアカネ科、ガガイモ科、トウダイグサ科、パイナップル科、マメ科、シダなどに見られ、世界各地に分布しています。

アリノスダマとアリノトリデ

アカネ科の着生植物であるヒドノフィツム属とミルメコディア属はアリ植物の代表と言っても過言ではないでしょう。和名では前者をアリノスダマ、後者をアリノトリデと呼びます。両者ともに球根状に膨大した基部をもっています。この球根状の部分は中が迷路状の中空構造になっており、この中にアリが住み着くようになっています。アリは巣の中に必ずゴミ捨て場を作るので、このゴミ捨て場から養分を吸収するようです。ちなみにコーヒーの木に近い種だそうで、よく似た赤い果実を付けます。

Hydnophytum formicarum

河口に近い汽水域のマングローブ帯で自生地を見つけましたが、残念ながら今回の旅行ではこの一カ所しかみつかりませんでした。バコ国立公園に行けばアリノスダマがあることは判っていますが、1日がかりになってしまいますので今回は断念しました。しかし、今回見つけたのはびっくりするほどの大群生地で、球体の直径が50cm近い大株も見られました。なお、アリ植物はアリとの関係が密接なため、通常複数のアリ植物が一カ所にまとまって見られるようです。ここではミルメコディアも一緒に群生していました。

↑樹着生するアリノスダマ
↑沢山着生しています。
↑ここで一番の大株
 
 
Myrmecodia tuberosa

球体に刺が生えており、まるでアリの要塞のように見えることから日本ではアリノトリデと呼ばれるようです。こちらはクチン周辺の色々な場所で見ることが出来ました。これらの場所に共通することは、川沿いの開けた場所ということです。大抵は高い木のてっぺん近くに着生しています。

↑マタン産の個体群、こんな感じにぶら下がっているものが多いようです。
↑テバガン産の個体。大株になると自身の重みで垂れ下がってしまうようです。 ↑アサン産。周りにはホヤ、リコポディウム等が着生しています。この木の真下にはクリプトコリネ・ストリオラータの群生地があります。
↑クチンの中心街で見つけた個体。ちょっとびっくりしました。
↑ヒドノフィツムと一緒に見られることも多いようです。
 
アリノスシダ
Lecanopteris sinuosa

シダ植物にもアリ植物が存在します。レカノプテリス属はアリノスシダと呼ばれ、その代表でしょう。太い根茎を這わせて樹着生するシダですが、根茎内がトンネル状になっており、その中にアリが巣を作ります。今回の旅行では、必ず何らかのアリ植物と一緒に見られました。

↑2枚ともマタンのミルメコディア自生地で撮影
  
Dischidia
ガガイモ科のツタ植物、ディスキディアもアリ植物です。葉の裏などにアリが住み着きます。
Dischidia.sp

テバガン産のミルメコディアと一緒に見られました。貝殻を伏せた様な状態で、葉を木の幹にぴったりとくっつけています。このすきまにアリが住み着いているのです。ちょうど葉に隠れるような形で根を這わすため、アリの持ち込んだ廃棄物などから養分を吸収することが出来ます。

矢印の部分にアリの通路があります。↑
 
Dischidia rafflesiana

マタンのミルメコディア自生地で見つけた株です。袋状になった葉を持っており、この中にアリが巣を作ります。さらに袋の中に自ら根を伸ばしてアリの廃棄物から養分を吸収するようです。この袋を貯水嚢と呼んでいるようですが、実際に水をためるかどうかはちょっと疑問です。



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